アナログレコードに携わっている方にインタビューする企画です。
第13回は、鳥取にてレコード店 “borzoi record” を営む前垣克明さんにインタビュー!
『本来アーティストが伝えたかった音とモノに触れたかった』
―なぜアナログレコードの世界に興味を持たれたのでしょうか?
そもそも僕の幼少期はまだアナログ全盛時代でした。中学時代には、おニャン子クラブや斉藤由貴とかチェッカーズ等を聴いてました。その後、ビートルズやローリングストーンズを。父がプレーヤーを持っており、(その影響で)オーディオに興味を持ちました。高校の入学祝いとしてONKYOのスピーカーとアンプを買ってもらったのがはじまりです。高校から大学卒業後はほぼCDでした。アナログを意識し始めたのは30代半ばになってからです。色々と(CDで再発されたものを)聞いてきて、やはり本物というか本来ミュージシャンが伝えたかった音とモノに触れたかったんです。
―では最初に買ったレコードは何ですか?
「六甲おろし」のシングル盤ですね。超阪神ファンなんです。これも父親の影響ですけど。
―影響を受けた音楽というと何でしょうか?
まずはRCサクセションですね。忌野清志郎を知って、こんな人がいるんだと、かなり衝撃を受けました。それから、はっぴいえんど。細野晴臣とか大瀧詠一とかもいて、より深みのある音楽に一気に世界が広がりました。これにまた刺激を受けました。
『そもそも音楽を売るって何だろう?』
―それにしても、このスピーカーは存在感がありますね。
これは、このお店を始めてから、縁があって求めたものです。70年代のものなんです。ONKYO Scepter10に採用されたホーンドライバー、珍品です。チタン振動板とアルミダイカスト製のショートホーン、音響レンズを組み合わせて高能率と広指向性を実現してます。アナログとの相性も良く、試聴のお客様にも好評です。
―いつ頃、どうしてここにお店を持たれたんですか?
2009年1月にオープンしました。その頃は今と違って、なんで今頃レコード屋?って周りからは随分反対されました。それまで郊外のチェーンの量販店に勤めていましたが、だんだん自分の居場所が無くなっていく感じで、一年くらい休職して「そもそも音楽を売るあり方って何だろう」と自問自答してました。場所としては友達がこのビルで雑貨屋さんを始めたのが縁です。それまでした事がなかったんですが、街中をブラブラ歩いてみて、さびれたと散々言われたこの街並みに魅力を感じたんです。やるなら郊外でやるより、街の生活の中で立ち寄ってもらえる「音楽を売る店」をやりたくなりました。
『手作り感のある、丁寧に作られた音楽が好きです』
―ところで店名の「ボルゾイ」はどんな意味ですか。
響きが好きなもので、ロシア犬の犬種からつけました。実は昔のバンド名でもあるんです。
―バンドをなさってたんですか?どんなジャンルですか?
学生時代にローリングストーズやジェームス・ブラウンのカバーバンドをしていました。担当はギターです。その後、オリジナルをやる様になり、宅録してCDにしたりもしてました。今はたまに一人で弾き語りをしています。時々インプットした音楽をアウトプットしたくなるんです。
―個人的に普段はどんな音楽を聴かれていますか?
コレクターではないんですが、手作り感のあるというか、丁寧に作られた感じがする音楽です。強いて言うなら歌モノが多いですかね。それと時期にもよりますね。例えばこうして冬になって、寒くなってくると、人の温もりを感じる音楽が聴きたくなります。最近ではJ.J.Caleというエリッククラプトンに影響を与えたというアーティストや、カナダのシンガーのBruce Cockburn、ブラジルのCaetano Veloso等をよく聴いてます。新しい旧いではなく、自分の世界観を持っていて、自分のペースで作り続けた人たちの音楽です。
『CDもモノとしてはアナログに感じます』
―CDやダウンロードは聞きますか?
CDは今も聴きますよ。音ではなく存在としてのCDは、もはやアナログだと感じます。今の若い人はCDプレーヤーをまず持ってないですからね。試聴用のストリーミングは聞きますが、買ったことはほぼ無いです。ジャケットなりブックレットを含めて、やっぱりモノとして欲しい方なので、気になったらCDを買いますね。僕は携帯電話の中に何万曲って入っていてもピンと来ないんです。うちは新譜のCDも扱ってるんですが、お客様の中にはストリーミングで聞いて良かったからCDを買いに来たと言う方もいて、そういうのを聞くと嬉しいです。
―お店では、どのようなレコードが売れてますか?
高額でレアなものというよりは、一般的な名盤、定番とかが多いですね。最近は幅広くジャンルもシティポップからロック、ソウル、ジャズまで売れています。昭和歌謡のEP盤も人気です。最近は鳥取にもアナログレコードをかける飲食店が増えてきました。同じ時間を共有しているという感覚がいいんだと思います。生活の中に音楽は必要で、アナログに興味を持ちだした人が増えているんです。データで保存しても、その日の気分やジャケットの雰囲気とかで曲を選びたいこともありますからね。
―お客様は鳥取の方が多いですか?
地元の常連さんはもちろんですが県外や外国からの観光客の方も多くなりました。アメリカ、アジア、ヨーロッパ系と様々です。ネットで探してご来店される方がほとんどです。外国の方にもやはり日本のシティポップとかが人気ですね。本当によくご存知ですよ。
『ずっと続いてる居酒屋さんみたいなレコード屋を目指して』
―「ボルゾイレコード」は今後どうなっていくんでしょうか?
この街の時間や空気感がゆったりしているせいか、休日にゆっくりアナログを聞いてみようという、(心と時間に)ゆとりがある方が多いなぁとこの10年で実感しています。そんな方々がたまに寄ってみたいと思って貰える、ずっと続いてる居酒屋さんみたいなレコード屋になればいいなと思っています。この街にとけこみ、何かいい音楽あるかなぁと寄って頂ける店にしたいです。
―前垣さんにとってアナログレコードとは何でしょうか。
【取材後記】
「ボルゾイレコード」は石造りのレトロな雑居ビルの2階にありました。昭和の香りのする素敵な雰囲気で、タイムスリップした様な懐かしく温かい居心地のいい空間でした。そんなつもりで取材に臨んだ訳では無かったのですが、前垣さんのお人柄か、気づくと何枚か買っておりました。音楽を売るとは例えば焼き物を売るのと変わらないんだと再認識もさせて頂きました。「JICOさんと同郷だと思うと勇気づけられます。」取材の開口一番でした。(前垣さん、こちらこそです)
【プロフィール】
前垣克明
1972年生まれ 兵庫県出身
2009年鳥取市にborzoi recordをオープン。
日々、良い音楽をモットーにオールジャンルの中古、
セレクト新品のアナログレコード、CD、本を販売中。
【borzoi record】
12:00〜20:00 木曜定休日
鳥取市新町201番地上田ビル2F
borzoigaki.exblog.jp