アナログレコードを愛する人々第8回 PLATANUS フォノカートリッジデザイナー 助廣 哲也 氏

2019-09-26


第8回は、自身のオリジナルブランド「PLATANUS」でフォノカートリッジデザイナーをされている助廣哲也氏へのインタビューです。音楽を聴く際には「オーディオ機器を感じたくない」とのことです。


『父にもらったアナログプレーヤーで』

―アナログレコードに興味を持たれたのはいつ頃でしょうか?

興味を持ったのは、、子供の頃はまだギリギリアナログレコードが普及している状況だったので、家に(レコードが)あったり姉が貸レコードを借りてきたりしていました。9つ上の姉がおりまして。小5ぐらいになって父にアナログプレーヤー一式をもらいまして、その頃からですね。

―初めてご自身で買われたレコードは?

荒井由実の1stアルバムですね。フリマのようなところで買いました。

―DJもされていたって本当ですか?

本当に昔、若い頃にやっていました。渋谷の宇田川にたくさんレコード屋さんがあった頃はよく友人とレコードを買いに行ったりしていました。

―レコードをどれぐらいの頻度で聴かれていますか?

うーん。3日に1度は製品の試験も兼ねて。

―一回にどれくらい聴きますか?

どれくらい聴いているんだろう。何時間も聴きますね。何個もまとめて試験するので。

―仕事できくレコードとプライベートできくレコードでどのような違いがありますか?

プライベートですと一日中聴いていますね。半分仕事の頭で聴いてるところもありますけどね。境目がないので。何かしながらは聴きません。ずっとスピーカーの前で聴いています。何かしながらの時間はレコードを聴く時間には入れていません。


―聴くときは聴く!と決められているのですね。でも、疲れませんか?

疲れます(笑)。

―プライベートで聴かれるレコードはどんなジャンルがありますか?

なんでも聴くんですけれど…古いジャズも聴きますし…あまり新しいものはないので。POPSも聴きますし。クラシックもありますし、いろいろですね。製品開発の時はどんなジャンルも聴きますね。

―製品開発試験で聴くのに必ず外せないジャンルなどはありますか?

ジャンルというか、曲のこの部分がどういう風になって欲しい、みたいなのがあるので。そういうのの聴き分けがしやすいものを自然と聴いていますね。仕事では。

―レコードは何枚ぐらいお持ちですか?

ここ(自宅)には本当に少ししかないんですけど。何枚あるんだろう。実家にほとんどおいているので。数えたこともありません。万はないと思いますけど、千はあると思いますね。

―レコードはどこで買うんですか?

レコード屋さんですね。あとはハードオフとか。ネットでも買いますね。


『何が求められているのかを研究』

―お仕事の内容についてお聞かせください。

フォノカートリッジやトーンアームの製造、設計が主です。

―トーンアームの設計ってどこから考えるのでしょうか。例えば形から入るのか性能から入るのかどちらでしょうか。

性能の方ですかね。

―カートリッジ開発は趣味で始められたんですか?

カートリッジのパーツを製作する会社にいたので部品は作っていましたが、製品にまではしていませんでした。最終的にどういう使われ方をするのか知っておかないといけないなと思いまして、僕は勝手に色々設計したり実験したりしていました。言われたことをしているだけじゃトンチンカンなことをしてしまっても気づけないなと。何が求められるのか、部品の精度とかクオリティーとか。そういうのが気になりだしてそのあたりから自分で研究し始めましたね。

―ご苦労話を教えてください。

苦労話は、、お金がかかる(笑)。部品が高いですね。数が出るものじゃないので、削り出しで作ったり。なので在庫がはけるまではドキドキですよね。個人ですから。

―プラタナスファンの方もいらっしゃると思うのですが、助廣さんが出されたカートリッジなどは問答無用で全部買う、みたいな方もいらっしゃいますか?

いらっしゃるのかどうか…(笑)。

工房の様子。細かい部分も綺麗に整頓されており助廣氏の人柄が窺える。


―完全フルオーダーメイドを作って欲しいというような要望はあるのですか?

そうですね。滅多にいないですけども。海外のお客様はそういう方いらっしゃいますね。

―部品とかも一個から発注になりますよね。そうなるとお値段がすごいことになりませんか?

そういう方は値段は気にしないみたいです。いくらかかってもいいから誰も持っていないものが欲しいという方はいらっしゃいますので。

―今までで作られてきたカートリッジはいくつくらいあるのですか?

プラタナスで出したカートリッジは2つしかないですけど。設計だけとか製造だけ担当したものを入れるとかなりありますね。

―一年間でどれくらいの数のカートリッジを発売されるのか決めておられますか?

特に決めていないですね。自分の名前で出すものに関しては。あまり商売っ気がないと言われるんですが。

―お仕事が重なって忙しいシーズンもあるんですか?

大変なシーズンはありますね。だいたいオーディオショウの前なんかは、部品がギリギリになったりするので。ミュンヘンのショウだったり、アメリカのショウだったり。

―そういう時は寝ずにやったりもするんですか?

それをやってしまうととクオリティーに問題が出る場合があるので寝ます、ちゃんと(笑)。普段から詰め込まないようにしているので、忙しいときにちょうど良くなるくらいにしないと、焦ってやって失敗すると、お金が…途端に…(笑)。


『オーディオ機器に存在を消してもらいたい』

―ところでMCカートリッジのマーケットってどんな感じでしょうか。

アメリカが大きいとは聞いています。アジアは最近伸びていますね。(アジアは)レコードで音楽を聴くことも普及してなかったので、最近になって趣味のオーディオが出てきたときに、逆に今アナログが新しいメディアのような扱いを受けていると聞いたことがあります。

―そうなると若い方の方が多いのでしょうか。

そうですね。お金を持っている若い方が多いので。

―日本とは逆のような感じがしますね。

日本は40年くらい前のオーディオブームの頃に若かった人が、お年を召されて、ちょっとお金に余裕が出てきて、アナログ回帰現象が起きていますね。

―カートリッジを設計されるときに、こんな特徴を持たせようというようなことを意識されて開発されるんですか?

プラタナスに関していえば、僕の趣味を反映しているようなところがあります。オーディオ機器を楽しむというよりはオーディオ機器に存在を消してもらいたい願望があるので、そっちの方向ですかね。

前職の退職金がわりにもらったというトーンアーム。


―オーディオ機器に存在を消してもらいたいとはどういう意味ですか?

オーディオで音楽を聴いているな、というのが好きな方もいらっしゃると思うのですが、そうではなく、音楽と対峙したいのです。僕はあまりオーディオ機器を感じたくないのです。趣味、スタイルは様々あると思うんですが、僕は基本そうなんです。

―開発製造のポリシーみたいなものはありますか?

ありきたりなんですけど、ユーザー目線ですかね。最終的に買って使ってくださる方のことを一番考えています。その値段でこのクオリティで自分は買うか、と。安いものでも24万とかするわけで、、MacBookとか買えちゃうんですよ(笑)。MacBook買わないでレコード針に24万出すってのは、すごいことだと思うんですよ。そのクオリティがあるかどうかはいつも考えています。高そうにして高くすれば売れるから売るっていうことじゃないんですよ。

―PLATANUSの名前の由来は?

元々の住まいの最寄駅がすずかけ台という名前だったんですよ。スズカケノキの木はプラタナスの木なんですね。独立した時に屋号を決めていなかったので、領収書を切る時に、助廣で、って言っても通じないんですよ(笑)。めんどうくさいなと思って、プラタナスにしとこうと思ってとりあえず決めたものがブランド名になりました。


『”もの”としての魅力』

―今世界的にアナログブームがきていますが、この流れについてどう思われますか?

うーん。そうですね。あんまりその影響を感じたことがないんですけど。データだけで音楽のやりとりができる時代になって、あえてアナログに注目が集まるというのは、”もの”としての魅力を感じているんだろうなと。データの入れ物としてみた場合には絶対デジタルの方が優秀なので、そこじゃないんだろうなと思っています。ジャケットもこんなデカイですし。手にできますからね。そういうところが注目されているのかなと思ってみています。

―今後の流れはどのようになっていけば良いなと思っておられますか?

アナログレコード自体は全くなくなることはないと思っているので、趣味のものとしてしぶとく残ってもらえたらいいなと。すでにそのようになっていると思うんですけど、より多くの人に楽しんでもらえるといいなと思っています。

―最後に、あなたにとってのアナログレコードとは?

インタビュー後記
閑静な住宅街の一角にあるシンプルかつおしゃれなご自宅兼工房は、まるでアトリエのようでした。インタビュー後、PLATANUSのカートリッジで荒井由実さんの「ひこうき雲」を聴かせていただくと、「ユーミンはサ行が歪みやすいので検査用レコードにもってこいなんです」と、真剣な表情で聴く姿にオリジナルMCカートリッジへの情熱と、とことんユーザー目線に拘られる姿勢を感じました。

助廣哲也(すけひろ・てつや)
1979年 東京生まれ。
幼少の頃より機械の仕組みや音にまつわることに興味を持ち、楽器作りやフィールドレコーディングに夢中な少年時代を過ごす。中学在学時にバンド活動を始めると、関心の幅は音だけでなく音楽にまで広がる。高専で電気工学を学んだのち、2002年よりハイエンドオーディオ機器の受託製造会社に勤務。トーンアームやフォノカートリッジの設計製造に携わる。2012年に独立し、PLATANUSを設立。
PLATANUS:http://platanus.tokyo