アナログレコードに携わっている方にインタビューする企画です。
第11回は、高円寺「EAD Record」店主にして、関連機材の開発をされている組嶽 陽三 氏です。
『EADという店名のダブルミーニング』
― 早速ですが「EAD Record」のEADって何ですか?
E(いい)A(アナログ)D(ディスク)の頭文字です。が、元々は違う意味でした。
― 元々とはどういう事ですか?
1993年に兄がここでアメリカの古着屋を始めたのがスタートです。その時は「EAD」は意味が違ってまして(笑)。兄には幼い頃から家出癖があったものですから。実はその「家出」から来てます。その後兄が帰郷して起業し、1997年に中古レコード店になりました。今年で22年目になります。
― レコードの仕入れなんかはどうされているのですか?
海外買付けも含めて色んなルートを駆使しています。でもここは場所が狭いんでね。(そんなに置けないんです)
― ご自身もレコードがお好きで、ご自分のテイスト中心の品揃えでおやりになっているなら、趣味とご商売の境目というか、仕入時にこれは売りたくないなみたいな盤が入った時はどうするんですか?
ノーコメントで(笑)。
『海外のお客様が7割です』
― お客様としてはどんな方が多いでしょうか?
海外の方です。七割はそうです。ここ二年は特に。今、空前のジャパニーズブームなんですよ、いろんな面で。音楽だけじゃなくファッションも。日本人はネット中心(にお買い上げ頂くの)でほとんど店舗に来られないですし。
― 外国の方は(何か目当てのある)目的買いなのでしょうか?
ですね。
― それは転売目的の投機的な感じですか?
それもあるかもしれませんが、日本のものは日本が全然安いんですよ、やっぱり。
あと、日本の音楽がよく分からないから、何かお薦めは?って聞かれますね。
―そう聞かれると、どうお答えになるんですか?
今、シティポップって流行ってるんで、山下達郎、竹内まりや、大瀧詠一、大貫妙子とかですかね。あとユーミンやサザンも紹介しちゃいます。ここで実際聞かせてあげて、あとはご自分で自由に聞いて頂くんですが、3時間くらい聞いてらっしゃいますよ。外国人は100%カード払いなんですが、現金なら少しディスカウントすると持ちかければ、じゃあいくらになるの?って交渉に応じてくれますね。そして結構まとめ買いしてくれます(笑)。
― この店内のメインスピーカーは手作りですか?
はい、そうです。長岡鉄男氏(スピーカー設計)系です。ユニットが8cmのフルレンジです。長岡さんは10cmで20畳くらいは鳴らせると仰っているので、この店のキャパシティなら充分です。でもうちは元来ダンスミュージック系なので少し振動を残す感じで仕上げました。ターンテーブルはKENWOODの80年代のものです。これも長岡氏の推薦機種です。
『100年もつものを作る』
―現在取り組まれているアナログオーディオ関連製品の企画開発はどういうきっかけで始められたんでしょうか?
ダンスミュージックのメインカートリッジはShure社の44Gになると思うんですよ。みんなが一回は手にする。そこがきっかけというか、始まりかもしれないですね。その音をもっと改造できないかと思ったんです。このカートリッジカバー(筐体)の開発メンバーの一人は家具職人であり、実は友達のお父さんなんです。材料は仕入れて5年乾燥させて、日本の四季を覚えさせるんです。とにかく100年もつものを作るというのが彼のコンセプトの真髄で、その話を聞いた時にこの人と仕事をしたら楽しいだろうなと思いました。
― じゃあ、その方と会ったのが先で木を使うというのが後ですか?
実は44Gに木を載せるという、似たような製品が海外も含めてたくさんありました。僕もいろいろ試聴してみましたが、サウンド云々というよりルックス重視が多かったんです。どうせなら、見た目も音もよくならないかなと思った時に縁があり、その後僕が工房を訪ねました。彼はオーディオ製品として既にスピーカーを手掛けていました。材として合板の方が強度が出るしコストも抑えられるので、それを言うと、「合板だといつか接着面が剥がれて形が変わる。むく材なら100年経っても崩れない。使えば使うほど、どんどん良くなっていくものにしか興味がない」って答えたんです。それを聞いた時、この人しかいないとなりました。
― 現時点ではこの木製カートリッジカバー(筐体)が材質別で4種類とその他には何を扱われているのでしょうか?
開発の途上でPCOCC-Aというリード線を探していました。なかなか見つからなかった時に、ひょんなご縁でそれを扱われている人と知り合い、その方もチームに加わわり、これはいけるかなと思えたんです。現在、バランス重視とグルーブ感重視の二人の職人さんに支えて頂いてます。お蔭でうちのリード線はレコードの持っているパワー感がスッと出ると自負しています。
― リード線の試聴会もなさっているとか?
リード線は種類が豊富ですから。毎月1回ここで行なってます。5人も入れば満席ですが(笑)。今月は22歳の女性にもご参加頂きました。
『個性が出過ぎたり、存在感を感じさせてはダメなんです』
― 今後の開発計画とかはお持ちですか?
まだまだ行きます。これまでの44Gのもっと先の音が表現できると思っているんです。オリジナルの限界みたいなのを感じていた時期もありましたが、JICOさんの昨今の取り組みを見てまだ行けると思えたんです。何よりも一番中心にはレコードがあるんです。我々の製品は個性が出すぎたり、存在を感じさせたらダメなんです。どこまでもレコードのパフォーマンスを支える土台でないといけません。うちの職人さんに言わせると、我々は江戸前寿司屋さんみたいだそうです。彼らは生で食べてもおいしいネタに、ひと手間もふた手間もかけて、素材の良さを最大限に引き出す、そんなところが似ていると。
― それでは、お薦めの一枚を教えて下さい。
坂本龍一さんの「B-2 Unit」です。たまたま近くにあったのでこれを手にしましたが、坂本龍一さんの作品はどれが一番とかではなく、どれを聴いても常に刺激をもらえるのでとても好きです。
― あなたにとってアナログレコードとは何ですか?
『インタビュー後記』
店主の組嶽氏のお人柄なのか、とにかく居心地がよく、取材中ずっと気持ちの良い音を聞かせて頂きました。直ぐ近くの神社に集まる小鳥の囀りも程よくミックスされて、こだわりすぎない自然な空間が魅力でした。何事も「素直で、奇をてらわず、やり過ぎない」そんなスタンスが長続きの秘訣かもと勉強になりました。
組嶽陽三 (くみたけ・ようぞう)
島根県出身1967年生まれ。渡米の際にレコードにハマる。帰国後長岡鉄男さんの自作スピーカーにもハマり22年間レコード屋として日々奮闘中。
EAD Record http://www.eadrecord.com
東京都杉並区高円寺南4-28-13 TEL&FAX:03-5306-6209
営業時間:午後1時~午後9時 定休日:火曜日