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「良し悪しではなく、それぞれの音の違いが面白いと思います」アナログレコードを愛する人々 第14回


アナログレコードに携わっている方にインタビューする企画です。

第14回は、千葉にてカートリッジの修理販売を行っている浅川さんにインタビュー!

―元々は漫画の編集者をされていたという事ですが、担当されたつげ義春さんとの出会いはいつ頃ですか?

つげさんが漫画描いていたのは87年までで、その頃僕は大学生でした。
編集の仕事を始めたのも90年代に入ってからで、それまではつげさんの作品の一読者でしかなかったです。

―『海辺の叙景』を読ませていただきました。哲学的で何を伝えたいのか裏読みしたくなるのですが、読み方として合っていますか?

エンターテイメントはストーリーに「起承転結」がありますが、「起承転」で終わり結末を読者の想像力に委ねるつくり方を始めたのがつげさんでした。
1950年代後半、大阪の若い作家たちがはじめた「劇画」というムーヴメントは、それまでの子供向けの空想漫画から離れ、日常的な題材を取り入れたリアルなものでした。
それに影響を受けたつげさんは劇画的な傾向を取り入れ、表現を次のレベルへと押し上げたんですね。

―浅川さんご自身は漫画を描こうとは思わなかったのですか?

描く気はなかったですね。最高のものは既にあるので、むしろ作品を生み出した作家の手伝いをした方が現実的ですから。 


―編集者として作品に口出しすることはありましたか?

僕がいたガロという漫画雑誌は、作家の白土三平さんが自分でお金を出して始めたものです。通常の出版社は作品に対して口を出したり規制したりします。規制に縛られたくなかった白土さんは、旧知の編集者と一緒にガロを始めました。そんな経緯でできた雑誌ですから、作家に口出しすることはありません。
描きたいものを描いてもらいそれを掲載する。その代わり、単行本の印税はありますが、原稿料は出ません。描きたいものを描いた作品は芸術性が高くても、エンターテイメント性は高くないため雑誌としてはなかなか売れません。

ガロの版元である青林堂は97年にオーナーが変わりました。ガロにいた編集者が独立し立ち上げたのが青林工藝舎で、98年からアックスを刊行していますが僕はそこの編集部にいました。 会社を辞めてからも当時担当していた作家から原稿が今でも送られてくるので、作品を編集部に仲介したり、解説を書いたり単行本を編集したりという雑用は今でもやっています。


―大好きな作家の作品を、世界で一番最初に読めるのは嬉しいことですよね。

そうですね。ただ大好きな作家でもダメ出しはします。いくら自由に描いて良いからといっても、作品が一定のレベルに達するためのコントロールはしています。

―大学をご卒業されてからもずっと漫画編集者を?

はい、ずっとです。カートリッジに携わる仕事を始めたきっかけもつげさんの作品『カメラを売る』の影響でした。『カメラを売る』は、貧乏なマンガ家が壊れた中古カメラを入手して、修理して売るという話です(笑)。
そこからヒントを得て、もともと音楽が好きだったのでカートリッジ修理の仕事を始めました。


―カートリッジ修理は依頼されて始めたのですか?

最初はビートルズのレコードの解説本『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ』(2012年)をきっかけにカートリッジにも手を出して、修理も始めました。レコードは盤によって音が違い、特にUK盤と日本盤は全然音が違うんです。
音楽ライターの湯浅学さんは、僕が編集部にいた雑誌アックスでアルバムレビューの連載をしていました。僕がたまたま入手したビートルズのUKモノ盤の音の違いを湯浅さんに伝えたところ、湯浅さんも入手して、それ以降2人でビートルズのレコードを買い集めるようになったんです。

その後、他の国の盤はどうかと思い、バルバドスやジャマイカなど色々な国の盤を集めるようになりました。どの国も全部音が違ったので、だったらインド盤のシタールの音はどう聴こえるかと入手して、聴いてみたら実際かなり違って強調されているように聴こえた(笑)。冗談のような話ですがおもしろいので本にしようと。
『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ』は買い集めた盤を2人で聴きながらだベった内容をそのまま収録した狂気の本です。

―音の良し悪しや違いはどこを聴いて判断していますか?

オーディオ的に良い音とは人それぞれだと思います。文化的背景によっても聴こえ方が違いますね。特に声の場合は言語によって強調されやすい周波数帯域があるので、お国柄によって音の好みも違います。特に驚いたのが、イギリスやアメリカ盤、フランス盤と国ごとにボーカルの質が全部違ったことですね。
良し悪しではなく、それぞれの違いが面白いと思います。そういった違いを説明したのが先ほどの本です。


―その本を出版された後、カートリッジの仕事を始めたのですか?

しばらくは編集とオーディオどちらも両立していました。ただカートリッジを変えたりリード線をつくったりするなかでシステムの方もいじるようになっていって、オーディオの比重が増えましたね。最初は簡易的なシステムで聴いていましたが、本を書きながらだんだんと変化していきました。レコードによっては原盤製作時のミスで逆相でカッティングされているものもあって、スピーカーの正相、逆相を切り替 えるスイッチを自作して聴いたり徐々に狂ったことをし始めました。
そして『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ』の上巻を出した後に会社を辞め、カートリッジ修理を6〜7年前からしています。

―修理や改造はどのようにして行なっているのですか?

カートリッジの歴史も長いので昔のものを直す人がいません。製造後何十年も経過した個体は音が鳴ったとしても聴けたものじゃない。そこで、今まで見たことのないものがあればまずは入手して分解して、内部構造を見ます。何個もやっているとどこを直せば ちゃんと音が出るようになるか分かってきます。ほとんどは振動系の劣化が原因ですから。


―昔の技術はどんな風に見えますか?

最近のものより昔のものの方が面白いですね。初期につくり出されたものは音も違うし、分解してみるとつくった人の喜びを感じられる気がします。すごく工夫していて手作りっぽい感があり、同じモデルでも個体差や、製造時期による構造の違いも大きいです。

―修理して元の状態に戻すことは難しいと思います。その中で浅川さんらしさを出せるものですか?

初期のカートリッジはとりあえず音は出ますが構造は原始的です。そこから改良されていき、後の技術で使い勝手が良くなっていきました。だから初期のモデルに後の技術を取り入れればもっとモダンな音になるはずなので、現在の素材を加えてみたりしています。ダンパーゴムなどはデッドストックのものやホームセンターで使えそうな素材を買ってきて自分でつくっています。
そんなに難しくはないです。参考になればと直し方や改造方法は自分のFacebookで公開していますがなかなかやる人はいないみたいですね。


―システム側の仕事を経て、当時の本の事やレコードの楽しみ方に変化はありますか?

もし今同じようなものを作ったら、全然違ったものになると思います。『アナログ・ミステリー・ツアー』は、何もわからない素人の状態から作ったもので、今は当時と比べてアナログに関する知識も広がりましたから。
逆に今作ったら専門的過ぎて誰も読まないかもしれません(笑)。ただ、盤それぞれの音が違うというのはシステムが変わっても同様に違います。

―カートリッジの修理や改造の仕事は、今後さらに商売になっていくと思いますか?

ならないこともないと思います。ただ、今は自分自身の興味の対象が昔のものを修理・改造するよりもより良い理想の音を求める方向になってしまっているので、ステレオ・カートリッジでいえば究極的には最高のものが一つ得られればいいわけです。
そうなると、商売としては成り立ちません。お客さんに勧めるのも最高の一つだけになってしまいますから(笑)。モノラルの場合は「究極の一つ」はいまだに決められないんですけど。

―思い切って外国の方が良いかもしれませんね。

たしかに外国の方がフォロワーがいますし反応が良いですね。


―ものづくりへのリスペクトが日本人と外国人とでは違いますか?

そうですね。外国人の方が先入観なしに実際のもので評価してくれます。改造は手作りなので商品としてはきれいではありませんが、固定客は2〜300人くらいいます。今は販売するとしてもその人達のみですね。

―今後アナログは続いていくと思いますか?

アナログはCDとは違う面白さがありますので、カートリッジやシステム含め良いものをつくれば続くと思います。現在出回っているカートリッジはほとんどがユニット自体は数十年前に設計されたものですよね。
振動系の素材や形状が工夫されても本体には進歩がない。ということは昔の技術が若い世代に受け継がれ、改良されていくということがどこかで止まっているんじゃないでしょうか。
新しいものが生まれないと、レコード針のようなものはある意味「骨董品の保守パーツ」的な存在としては残っていくでしょうが、それ以上の広がりは生まれないと思います。

―浅川さんにとってアナログレコードとは何でしょうか。


【取材後記】
漫画の編集や著書、現在の仕事のお話しを伺っているうちに、アナログレコードを含めエンターテイメントへの愛情がとても深い方なのだと感じました。私たちが見習わなければならないところもあり、ものづくりへの情熱を垣間見ることができました。
いつも大音量でレコードをかけているそうなので、近隣住民から苦情が来ないか心配ではあります。

【プロフィール】
浅川満寛(あさかわ みつひろ)
劇画史研究家・編集・執筆・ヴィンテージオーディオ輸入・販売
漫画の編集者を経て『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ』を2012年に出版後、ヴィンテージ・カートリッジの修理や販売を行っている

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