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「盤からの情報だけで十分なのでネット検索はしていません」アナログレコードを愛する人々 第15回


アナログレコードに携わっている方にインタビューする企画です。
第15回は、高円寺にてレコード/CDショップ「円盤」の店主、田口史人さんにインタビュー!


―高円寺で円盤を始めてどれくらいになりますか?

17年経ちます。

―どうして高円寺で始めようと思ったのですか?

完全に個人の自主制作のものを直接預かって売っているお店なんで、やるとしたら高円寺で、ここでダメだったらどこでやっていも成り立たないだろうなと思って始めました。
私は神奈川にあったCDショップの本部にいたのですが、横浜で自主制作だけを取り扱うお店を会社としてやれないかと思って試算してみたんですが成り立たないなと思って個人で始めたんです。



―どうしてインディーズに興味を持ったのですか?

もともとあらゆる表(チャート)が好きで、それを現実と照らし合わせることが面白かったんです。小学生の時は相撲の番付けや歴史年表などを自分でまとめて冊子を作ったりしていました。中学生の時に音楽にもチャートがあることを知ってはまったんです。
音楽の場合はビルボードを見ると世界各国のチャートが載っていたりして、たくさんの表があるのが楽しくて、それぞれを自分で表化していました。表は現実と照らし合わせないと意味が無いので、そのために音楽を聴き始めました。

インディーズに興味があるというよりは、途中からインディーズチャートがあることに気付いたんです。インディーズ・チャートの曲はラジオで流れないので買いに行くしかありません。でも聴いてみたら、なぜこれが上位になっているのかが理解できませんでした。それを確認するためにライブハウスに行くようになり、現場を知ることでだんだん面白くなっていきました。
昔のライブハウスはオーディションがあって、出演できる人が限られていたので、ライブハウスで演っている人を全員観てみたいと思ってライブに行きまくりました。
そのうち、ここに出られない人たちはどんな音楽をやっているのかに興味を持つようになったんです。オリコンであれば200位まで載っていますけど、現実には201位のものもあるはずで、それを聴いてみたくなったんです。そうやって裾野までわかってくると、チャートが余計に面白くなるんです。
売れるものがある以上、その末端のものもあるわけで、この店はその末端の先にあるものを預かることで今の形になりました。




―預かる商品を査定する場合は何が決め手になりますか?

商品を預かる以上、その人とずっと付き合っていくことになるので、信頼関係がないと成り立ちません。その人と続けてやっていけるかを一番にみています。

―商品の預かり期限はありますか?

期限は設けていません。在庫がなくなったらまた仕入れています。基本的に預かるものとはずっと付き合っていくつもりです。

―委託する人は円盤だけに委託しているのでしょうか?

そんなことはないでしょうね。あちこちに委託したり自分自身で売ったりしていると思いますよ。

―その場合の値段は統一されていますか?

値段は統一しなくても良いと思っています。ここから出しているCDでもこことは違う値段になっている場合もあると思います。売りたい値段で売ってもらっていますが、ほとんどの場合どこも同じ値段で売っているんじゃないでしょうか。CDやレコードは再版商品になっているので、価格が統一されていますが、そうじゃなくても良いと思っています。



―今まで扱ってきた中で最大のヒットはなんですか?

ここの店で一番ヒットしたのは「ミドリ」というバンドですね。ソニーからデビューしたのですが、デビュー前はずっとここで販売していましたし、デビュー前のDVDもうちで作成しました。それが一番売れましたね。

―これは売れるなっていうのはわかりましたか?

売れるかもしれないなとは思いましたが、売れるかどうかはあまり考えてないですね。

―その人の人柄と作品に相関関係にはありますか?

それは絶対にあります。その現れ方はいろいろですが関係ないことはないと思います。だから面白いですし、音楽そのものよりその関係性の方に興味があります。結果が音楽としてすごくつまらないものであったとしても、納得できるようなつまらなさだと面白いんです。

人柄と音楽の関係性がわかるのがライブで、もともと人柄を知っている人の音楽を聴くと面白いです。しかしそれが世の中にまで通用することはほとんどないと思います。

ここは対面で販売しているので制作者の人柄を紹介できますけど、それがないとわからないものも多いと思います。

あとは人柄と音楽の関係性だけではなく、それがデータではなく、<もの>になっているということも関係しています。人柄と<もの>の関係も面白いです。

―ネットでも販売しているのですか?

販売していますが説明しないとわからないものばかりなので、有名になったもの以外はネットで売れることはあまりないですね。




―レコードやCD以外の商品も委託された商品なのでしょうかか?

委託のものだけではないですね。レコードを買うためにリサイクルショップなどへよく行って、レコード以外のものもたくさん買うのですが、せっかくなんで違うものも置いてみようかなと思いました。CDやレコード以外では自作の楽器なんかも置いています。作っている人のテンションが高いのが伝わってきて面白いですね。今は音楽制作のハードルが低くなった反面、面白いものが生まれづらくなっていると思います。簡単にメジャーのようなものが作れてしまうので。
メジャーの人たちは売れる音楽を作らなくてはいけませんけど、素人はそんな事を考えずに好きでやっているだけで良いのが強みです。売れたい気持ちを持ってやっていると絶対に生まれないものが生まれてくる可能性があるので、素人がやっているものを聴く面白さはそこですね。


―万人に受け入れられるものを売るより、自分が面白いと思ったものを売るというスタンスですよね?

そうですね。万人に受け入れられるものってそもそもないと思いますし、幅広く売りたいと言っている人も実は数の多い特定の人に向けてつくっていると思います。

―我々もものづくりをしていますが、やはり買っていただいたものは大事にしてほしいですよね?

好きなアーティストがCDを出したら絶対に買うっていう買い方は僕は嫌いですね。それはそのCDがどんな内容であろうと買うからです。そのものの価値は問わずにただ単に買われるってことですから。

―円盤にはどのようなお客さんがいらっしゃいますか?

よく分からないです。店舗が二階で一見さんは入りにくいと思って、当初からインストアイベントをやっていました。イベントで一回来てしまえば来てもらえるようになるので。
そのイベントの内容がバラバラで、その振り幅だけはよその店ではありえないものがあると思います。なので、客層もまるでわかりませんね。若者から老人まで来ますし。

―どのようにイベントを告知していますか?

店頭とネット上のスケジュール表だけですが、イベントに出る人のお客さんがほとんどです。店の大きさ的にキャパは20人くらいなので大々的な告知はしていないです。



―レコード寄席をはじめたきっかけは?

ライブハウスで合間にDJを頼まれることがよくあったのですが、昔のラジオのディスクジョッキーのようにレコードをかけて話をするっていうのをやっていたのがもともとの始まりです。その時によく音楽以外のレコードをかけていました。学校の卒業記念のものとか。それらがなぜつくられたかなどの背景を話すことをたまにやっていました。
そのうちに知人から、その話だけでイベントをやってみないかと言われて、実際にやってみたら結構評判が良くて、レコード寄席をやる機会が増えていきました。

―各地でのイベントはオファーがあって行くのですか?

そうですね。最初はオファーがあって、うまがあえば、そこから年に1回くらいの頻度で行くようになります。北海道から沖縄まで全国に行っています。

―県民性はありますか?

県民性より、店主がどういうスタンスで店をやっているかで変わるんだと思います。一番最初は毎回基本編と称してレコードとはなんなのかの話をして、その反応をみてからいろいろ考えます。

―プライベートではどういった形でレコードと関わっていますか?

家にいるときはずっとレコードをかけています。そうしないと全部聴ききれないので。



―レコード寄席でかけるレコードはどうやって決めていますか?

かけるレコードは自分で決めるというより、1つのジャンルの歴史の中で重要なレコードが絶対にあるので、それを順番に聴いている感じです。
知らないレコードでも安いものだったら買い集めて、ひたすら分類していきます。分類していくうちに、あるジャンルのレコードが増えていって、その世界の歴史がみえてくることで、何が重要なものかがわかってきます。盤からの情報だけで十分なので、ネット検索はしていません。

―音楽の配信やダウンロードについてはどう思いますか

興味ないですね。その聴き方をする人がいるのはわかるのですが、それが面白いことだとは思えないので。やはり<もの>じゃないと面白さが半減します。<もの>だと触感があったり劣化したりして楽しめることが多いです。劣化するということは、そこに歴史があり、持っていた人の人柄なんかが刻まれるのが良いことだと思いますし、それを見るのが面白いです。
例えばリサイクルショップなどで「およげたいやきくん」のレコードがあったら、子供が持っていたものなので雑な扱いだったことがわかります。それが雑であればあるほど、その分聴かれたんだなと思えます。大事にされていなかったんじゃないかと思いがちですが、何回も聴かれたということだと思います。そういうレコードに何枚もあたっていると、そのレコードがどんな層に売れてどう扱われていたのかがなんとなくわかってきます。ネットが普及する前はみんな当たり前のように感じていたことですね。


―今後は円盤をどうしていこうと思っていますか?

ぼく自身は別の場所で新しいことをやるつもりです。都内では保管できないほどものが増え続けてきたので、大きな倉庫を持つために長野へ行きます。
円盤は任せられる人に引き継ぎたいと思っています。ぼくがいなくなってもお店が続いてるいたら面白いなと思っています。

―あなたにとってアナログレコードとは?



【取材後記】
高円寺ならではの雰囲気で一度訪れると癖になるお店でした。店主の田口さんのものへの愛情あふれるお話は大変興味深く、レコード寄席にも是非足を運びたいと思いました。
ふと目にしたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのポータブルプレーヤーを買おうか最後まで悩みましたが諦めました。欲しい方はお店へお問い合わせを!

【プロフィール】
田口 史人(たぐち ふみひと)
高円寺「円盤」の店主。昭和のレコード世界を聞く会「レコード寄席」を毎月日本各地で行っている。
著書に『レコードと暮らし』(夏葉社)、『日本のポータブル・レコード・プレイヤーCATALOG 奇想あふれる昭和の工業デザイン』(立東舎)、『二◯一二』(円盤)などがある。

■円盤
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■円盤 Twitter
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