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「リード線で本当に音は変わるのか?」アナログレコードを愛する人々 第9回

アナログレコードを聞くための機材を製作されている方にインタビューする企画です。第9回は、シェルリード専門工房 KS-Remasta 工房責任者 柄沢 伸吾 氏。シェルリードの製作に用いる「刃物の切れ味で音が変わる」そうです。 『輸入盤屋さんの匂いが心地よかった』 ―マライア・キャリーのレコードが沢山ありますね。 そうですね。ほとんどあると思います。 ―それに、ものすごい数のカートリッジを大切にケースに収納されてますね。 財産になりますかね。(笑) このケースは、もともとミニカー用なんです。色々とサイズがあるのですが、蓋を閉めても中でヘッドシェルが暴れないものが良いです。 ―レコードに興味を持たれたのは? 初めて買ったEPレコードは、山口百恵さんの「プレイバックパート2」です。小学生の時に買いました。LPは甲斐バンドの「甲斐バンドストーリー」。中学二年生ぐらいから洋楽を聴きはじめ、高校生になると輸入盤を買うようになりました。特に輸入盤屋さんの匂いが、なんとも言えなく心地よかったです。 あの匂いはなんて説明したらいいのか。輸入盤だから勝手に外国の匂いと思い込んでいたんだと思います。今でもするのかな、あの匂い。 『改めてレコードの音の良さにビックリ』 当時はレコードよりCDが高かったんです。たぶんCDの方が音がいいんだろうなと思いながらレコードを我慢して聴いていた時期もありました。30歳ぐらいの時に改めてCDとレコードでマライア・キャリーを聴き比べると、レコードの方が圧倒的に艶やかで、ダイナミックで、空間を満たす感じが見事でした。 ―シェルリード線を作ろうとされた経緯についてお聞かせください。 社会に出てカートリッジを買えるようになった頃、欲しいと思っていたカートリッジが製造中止になったんです。それをきっかけに「今買っておかなくてはなくなってしまう」と思いました。30個ぐらい買った時に「このカートリッジたちの音を素直に出してくれるリード線がほしい」となったんです。 リード線もお手頃の物が手に入らなくなり、「メーカー付属のリード線でちゃんと音が出ているのだろうか?」と疑問を抱きました。1,000円程度で市販されているものは、特徴的で明るい音でしたが「素の音じゃない」と感じていました。そのうち海外製で4,000円の物が発売されました。だいたいカートリッジを買うときはヘッドシェルまで買うじゃないですか、ヘッドシェルまでは買えてもリード線までなかなか買えなかったんです。発売されたその海外製のリード線で聴くとすごく上品できれいな音がしました。 やはりこういうので揃えたいと思ったのですが、30個あるカートリッジすべてを揃えるのは、ちょっと大変だなと思い、何度もハンダ付けを失敗しながら自作したのがきっかけです。 『ハッとする時とそうでもない時』 ―その当時は電気の知識やハンダ付けの技術をお持ちだったのですか? 全くといっていいほどありませんでした。だから最初は上手くいきませんでした。そんな時にスピーカー自作のサークルでスピーカーターミナルのところをハンダ付けしている工程を見たんです。オーディオ中古店で手際よくハンダ付けをしているのも見ました。とにかく、真似をするしかないと続けていると少し形になったんです。その頃シェルリード線についてアドバイスしてくれる方に出会いました。その方との出会いによって、今の基礎を築くことができました。 少しずつお客さんにも知られるようになりました。オーディオ誌にも取り上げられ、とても良い評価を頂きました。それで屋号を「KS-Remasta」として立ち上げました。高評価を得た製品はヴィンテージワイヤーを使用した製品でした。ヴィンテージワイヤーをハンダ付けするとき、エナメルを刃物で剥がす工程があります。素材を厳選していたことはもちろんですが、この工程を丁寧に行っていたことが、高音質に結びついていたんだと思います。 ―丁寧っていうのは、どの位の差なんですか? 良く切れる刃物でエナメルを念入りに少しずつ剥がすということです。別に丁寧にしなくてもハンダもつくし、音も出るのですが、仕上がりが気に入らなかったのです。でも今思えば丁寧に行っていたからこそ僕のリード線は音が良いと評判になったんだと思います。ある時、その刃物をデザインナイフから医療用メスに変えてみました。最高級のリード線というのは、とても細く、髪の毛ぐらいしか太さがないんです。このモデルのリード線は糸で被覆してあり、その上のエナメルを剥がすのですが、医療用メスに変えると、とても音が良くなったとユーザー様から言われたんです。 なんで良くなったのか、その時は自分でもよく分かりませんでした。別のコーチからある時「ハッとするぐらい良い時と、そうでもない時がある」と言われました。その時は、フラッグシップモデル・Legendを完成させたかったのでバラツキがあってはならないと思っていたんです。そして「刃物の切れ味で音に変化が生じる」と閃きました。 『安来鋼、安来白一鋼にたどり着く』 調べてみると、錆びる鋼、「*安来鋼」の刃物が切れ味に優れていることがわかりました。その中でも日本刀に使われる玉鋼に一番近いとされる「安来白一鋼」にたどり着きました。これを探すのが大変だったんですが、ネットオークションで刃物のカテゴリーではなく骨董品で売ってるのを見つけたんです(笑) 『ハンダがのるスピードが速い』 この白一のメスに変えてからハンダののるスピードが格段に上がりました。良いハンダ付ではハンダの「のりがいい」という表現を使いますがさらに先の感覚です。導体の表面をハンダが「ぴゃーっ」とストレスなくハイスピードに滑って行くんです。この感覚は導体の表面を鏡面加工を施したStageシリーズで覚えがありました。ここまで導体の鏡面加工精度を上げているのは、未だ耳にしたことがありませんので、他に経験された方はいないのではないでしょうか? 元々はエナメルを残しのないように剥ぐ目的でやっていたはずが、導体を(新品状態より)きれいに磨き上げていくという役割に変わっていったのです。その効果はピュアで澄み切った純度の高いサウンドとして現れました。さらに鋼の探求を続け現在は他の鋼(KS-Remasta No.4)を採用し、それを研ぐ砥石、工程も研鑽を続けています。余談ですが「鏡面加工精度をあげた導体**」って、手袋して触ってもドキッとするほど「しっとり」した感じなんです。 ―結局、レコードを聴いた時に、聴こえなかった音が聴こえるってことですか? もちろんそれもありますが間接音、雰囲気、気配といった言葉で表現しにくい微細な成分が豊富に浮き上がってきます。導体を研ぎ澄まし磨きあげていくというのは限りなく微小な信号を通過させるのに極めて有効な技術と確信しています。逆に言えば凸凹の導体では微小信号が迷子になって通過しにくいと推測します。私にとってアナログの最大の魅力は限りなく微細なことをどこまでも「無かったことにしない」ってことです。カートリッジがリード線の加工精度を上げると、どんどん良くなっていくんです。愛機(カートリッジ)は、それだけ音を拾っているということなんです。そして磨けば磨くほど、なんか面白い事になるんです。これからも「これ以上できない」ってものを作り続けたいです。 ―あなたにとってアナログレコードとは何ですか? https://youtu.be/IiKTHBWe60o * 雲伯国境地域「現・島根県/鳥取県境」における直接製鋼法で出来た鋼の総称。古来の正統的和鋼として、同地方の奥出雲町では年に数回の古来の「たたら吹き」製法により玉鋼がつくられ日本刀の原料として全国の刀匠に配布されている。 **KS-Remasta ではヴィンテージワイヤーを使ったVWSシリーズの他、導体の表面を手作業による鏡面加工を施したStage シリーズがラインナップされている。 VWSシリーズで導体の表面を刃物で磨き上げるのはハンダ付けするわずか2mm弱の部分。 インタビュー後記取材当日、バス停までわざわざ迎えに来ていただいたうえに、思いがけず"絶品牛すじカレー"をご馳走になりました。隠し味に牛骨テールを細かく砕いて入れているとか。きめ細やかなお心遣いと"ひとひねり"がそのままモノづくりに反映されており、手持ちのカートリッジに柄沢さんのリード線をつけて聴いたところ、上品な音に変わったと実感しました。 柄沢伸吾(からさわ・しんご)1966年12月生まれ東京都立小石川工業高校 電気科 卒業電気工事店 就職2012年1月に、シェルリード専門工房 KS-Remasta(ケーエス・リマスタ)を開業 シェルリード専門工房KS-Remasta ホームページhttp://www.ks-shell-lead.biz/シェルリード専門工房KS-Remasta ハイエンドシェルリード専門ネットショップhttps://ks-remasta.welf.biz/Twitterhttps://twitter.com/KsRemasta...

名人の秘密治具(2)

前回に引き続き、Wood Carving Cantilever商品に使われる専用治具をご紹介します。 時計旋盤とよばれるこの機械は、その名の通り本来は時計の部品を作るための機械です。こちらを使ってWood Carving Cantilever商品の木製カンチレバーを加工しています。 もともとはレコード針のホルダーを加工する目的で購入したのですが、現在ではその作業専用の治具が作られていて、この時計旋盤の出番はそういった治具を作る時くらいとなっていました。   そこでWood Carving Cantilever商品の開発者がこの時計旋盤に手を加えて、木製カンチレバーの加工に使い勝手のいいように改良してしまったのです。 木材を削ってカンチレバーを作るのですから、とても細かい作業ということを想像してみてください。 Wood Carving Cantilever商品の発売まであと少しです。 お楽しみに。 ...

当社工場の職人へインタビュー(5)

名前:Y.T 勤続年数:11年 担当:梱包、カンチレバー加工、チップマウント 大切な商品がケースの壁にあたって破損しないように、ドーム型のカバーに入れて固定します。 - やりがいを感じる瞬間は? 丁寧な梱包をしたものをお客様へ発送出来て、お客様の手元に届いたときです。また、カンチレバーの加工およびチップマウントでは、一番最初の工程なのでとても責任を感じます。 印刷物が間違っていないか、ゴミが入っていないか、全て細かくチェックしてからふたをします。 - 難しい作業は? 梱包の際は、ケースに傷がないか、ゴミやほこりが入っていないか、品番に合った印刷物がちゃんと入っているかなど間違いが許されないことです。カンチレバーの加工では、傷を付けて不良品を出さないようにすること、チップマウントでは方向を確認して垂直に取り付けることに意識を集中しています。 テープも真っすぐピシッと貼ります。 ...

当社工場の職人へインタビュー(4)

名前:E.M 勤続年数:16年 担当:ゴム成型全般(レコード針の部品としてはダンパーゴム) ダンパーゴムが金型からきれいにはずれるよう型が熱いうちに木べらでこすります。 - やりがいを感じる瞬間は? 注文が沢山来て、自分が生産したものがレコード針としてお客様にご購入していただけた時です。 ダンパーゴムを傷つけないよう丁寧に金型から押し出します。 - 難しい作業は? *バリをきれいに取り除いて、きれいな部品の状態で後の工程に渡すことです。 *バリ:成型時に生じる不要な部分。 歪みなくきれいに穴が空いているか一つ一つチェックします。 ...

名人の秘密治具

日本精機宝石工業(JICO)のレコード針は職人の手作業で組み立てられており、商品や工程によって様々な治具を使い分けています。そのほとんどは全て当社が独自に作り、その多くは長年大切に使われ続けているものです。 社外に公表することはめったになかった名人の秘密治具を特別にご紹介します。 こちらは今年 秋冬に発売予定のWood Carving Cantilever商品専用の治具。 どのような作業に使うものか想像できますか?カンチレバーにダイヤモンドチップを埋めるためには小さな穴を開ける必要があります。以前ご紹介した通り、この新商品はカンチレバーに黒柿という木材を使用しますので、穴を開けるための治具も特別仕様。 つまりこの治具は、木製カンチレバーにダイヤモンドチップ埋め込み用の小さな穴を開けるためだけに作られたものです。 さらに驚きなのは なんとこの治具、職人による手作り! Wood Carving Cantilever商品の開発者が部品を集めて自分で作ってしまいました。 治具そのものも一つの芸術品のようにすら見えてきませんか?そこまでしてでも当社の職人がみなさんにお届けしたいと感じたWood Carving Cantilever の音色。職人の想いが込められた新商品です。発売をお楽しみに。 ...

当社工場の職人へインタビュー(3)

当社工場で働く職人へ、インタビューを行いました。 名前:K.K  勤続年数:37年 担当:樹脂(ノブ)成型 - やりがいを感じる瞬間は? お客様からご注文をいただき製品が商品になって出荷する時です。 - 難しい作業は? 形が複雑な型番のバリ取りと、インサート成型です。部品が複雑な形のインサート成型は金型が壊れないように特に集中します。 *バリ:樹脂成型時に生じる不要な部分。 *インサート成型:金属部品(ホルダー)を金型に設置した後に樹脂を流し込み、金属部品と樹脂が一体化した部品を作る工法。 ...

当社工場の職人へインタビュー(2)

当社工場で働く職人へ、インタビューを行いました。 名前:M.M(製造グループサブリーダー) 勤続年数:13年 担当:組み立て - やりがいを感じる瞬間は? 組みあげた針が無事に出荷された時です。 - 難しい作業は? 滅多に注文が来ない(年間に数本しか来ない)型番を組む時です。 ...

当社工場の職人へインタビュー(1)

当社工場で働く職人へ、インタビューを行いました。 名前:M.T(製造グループリーダー) 勤続年数:23年 担当:音検査 - やりがいを感じる瞬間は? メールなどでお客様からお礼の言葉をいただいた時です。 - 難しい作業は? 特殊チップ(楕円針、S楕円針、シバタ針)のビビリ音、遊び(可動範囲のこと)でデータでは判りづらい微妙な判断を求められることです。 ...